最高裁判所第三小法廷 昭和26(あ)199 判決
主 文
本件上告を棄却する。
理 由
弁護人広瀬通の上告趣意(後記)第一点について。
論旨引用の鑑定書には、本件青酸加里粉末を「約〇・〇六乃至〇・〇七瓦程度服
用したとすれば、致死量は多少個人差を有するけれども、通常は死に到らない」と
あつて、絶対に死に到らないとは記載されていない。そして第一審判決は、右鑑定
書のほか他の証拠をも綜合して、A及びB両名が死亡するに至らなかつた原因につ
き、「毒物の量が少なかつたのと、Aは間もなく毒物を吐き出し、Bは医師の手当
が早かつたため何れも死亡するに至らなかつた」と判示しているのであつて、その
間少しも鑑定書と背馳した認定をしたものではない。また原判決は、青酸加里〇・
〇六瓦は通常の致死量であることを認め、かかる分量を相手方に与えてこれを呑ま
せた以上偶々本件の場合に青酸加里の純度が低かつたため死の結果を発生しなかつ
たとしても不能犯ではないと判示しているのであつて、所論のように「被告人の犯
行当時に於ける主観的認識事情を基準として判断」したものではない。論旨引用の
判例は、いずれも原審と同一の見解をとつているのであるから、原判決には所論の
ように判例と相反する判断はない。
同第二点について。
論旨中には原審が「判例と相反する判断をした」との主張があるが、その判例は
具体的に示されていないので、かゝる主張は採用できない。論旨末尾引用の判決(
昭和二三年(れ)一二五一号同二四年一月二〇日当裁判所第一小法廷判決)は、原
審と同一見解であること論旨自体認めている。また、原審の判断には所論のような
違法のないことは、当裁判所の右判決により明らかである。
よつて、本件上告を理由ないものと認め、刑訴四〇八条に従い、裁判官全員の一
- 1 -
致で主文のとおり判決する。
昭和二七年八月五日
最高裁判所第三小法廷
裁判長裁判官 井 上 登
裁判官 島 保
裁判官 河 村 又 介
裁判官 本 村 善 太 郎
- 2 -